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東京天竺とは、文化学院小説ゼミの有志で始めた同人誌。小説やエッセイ、漫画などを掲載。詳しくはカテゴリ『東京天竺1号』『東京天竺2号』ご覧下さい。


by tokyo_tenjiku

第十一回 勝手にロックンロール!!

 こんにちは、誕生日に女の子の友人からエロ本をもらったことがある高橋です。
 その、エロ本、プレゼントだから捨てるわけにもいかないし、かといって堂々と部屋においとくわけにもいかないし、適当な場所に隠しておいたら、その場所がホントに適当すぎてどこに隠したか忘れました。
 いつか模様替えしたときに急に出てきたらどーしよう。
 女性の皆さん! プレゼントにエロ本は控えましょう!
 男性の皆さん! 女の子を理解するのはあきらめましょう!
 やー。
 
 今日はきっとどこかで誰かが生まれた日です。おめでとうございます。そしてその誰かが数十年後に僕と出会ったりするかもしれない、そんな奇跡みたいな日に更新しました。あるいは明日も、昨日も、三年前も、地球が丁度切りのいい数だけ回った日でも、実は、特別な日とかないんです、ほんとうは。
 誕生日とか、クリスマスとか独立記念日とか、銀婚式とか、それはそれで素晴らしいことですが、大事なのは祝うことではなく、想うことです。でも人間、そういうことはやっぱり忘れます。しょうがない。忘れるものです。忘れてしまうから、人はわざと終戦記念日とかを作るわけです。むしろ毎日奇跡だ! と天を仰ぐ人なんていないけど(笑)。でも人は同時に、思い出すことができます。
 僕はたまに音楽をきいて思い出します。そういえば今日生きているのは偶然なんだ。
 しまった! 実は今日は今日だけだった! って。
 次に載せる小説はそんなことが思い出されて、書いた小説です。

 てなことをもとより載せるつもりだったらば、そーいえばたかださん昨日誕生日だったかぁ。おめでとう。



 『未来の色』

 あぁ、そういえば明日で僕は七歳になる。
 “誕生日”なんてものを他の仲間たちはまるで知らなかった。産まれた日、みたいなことを考えたのは君たち人間だけなんだってね。でも素晴らしいことだと思う。忘れてしまわないように、なんて悲しい理由は少し気分が悪いときに誰かが考えたことだよ。もっと、誇りに思って欲しいな。
 僕の一族は変わっている。七歳になると晴れて一人前の仕事が出来る。だけど八歳になる前に消えてなくなる。誕生日を覚えていることは同時にいつ死ぬかがわかってしまうから、僕たちは普通、生まれた瞬間に忘れるらしんだ、誕生日とか、生まれた意味とかそういうことを全部。ただ単純に仕事をこなしていく。
 雨が降った後に僕たちは世界へ仕事に出る。でも切り上げる時はいつだって適当だ。今日はもういいかなって思ったら、僕は風にのって場所を変えて色をなくして空で眠る。なんとなく空がそわそわしたらそれは合図だ。また適当に世界に体をさらす。ただ空に横たわっているだけなのだけど、これが案外、コツがいる。それを人間の君にいっても、仕方がないけどね。
 僕には君のように目とか手とか鼻とかそういった素晴らしいものはない。あるいは君にとってはわずらわしいのかもしれない器官が、僕にはない。だけど僕には世界を見下ろすことが出来た。世界に触れることが出来た。花の匂いだって知っている。君が話す言葉も、感じとれるんだ。それを可能にしたものはなんなのかわからない。きっと嘘だって、君はいうだろうね。いいんだ、なんでも。僕にそれができたのは事実で、それを感じさせてくれたのはいつでも君たち人間だった。
 そうなんだ、君のいうとおり、僕は人間が好きなんだと思う。
 初めて世界に立ったとき、僕はまだ小さかったし、色もなかったから、まわりは誰一人気づかなかった。ここはどこで、これから何をしなければならないのかぼんやりと考えていたらすぐそばを人間の親子が歩いてきたんだ。「お母さん、水溜りだ!」って。その“水溜り”っていうのがなんなのかその時は分からなかったのだけれど、いったそばから子供はあっという間に走ってきて僕の真下にある透明の、きらきらしたものに(つまりそれが水溜りだったんだけど)飛び込んできた。
「こら、汚れちゃうでしょ」ってさっきまで子供の手を引いていた母親は後からゆっくり僕のところへやってくる。子供は小さな足で何度も同じ場所を飛び跳ねた。ちゃっぷん、ちゃっぷん。子供は「お母さん、長靴すごい! 長靴すごい!」ってしばらくはしゃいでたよ。僕はなんだかとっても素敵な場所に産まれた気がした。
 僕が今までで一番嬉しかったのは四歳のときだ。それまでも仕事はそれなりにやっていたんだけど三色から四色になった最初の日だったからちょっと、はりきった。今日はやってやろう、って。いつものように風に乗って、目についた雲の切れ間で体を横にした。少し高い場所だったからひょっとしたら誰にも気づかれないんじゃないかって心配したんだけどそんな心配は無用だった。
 手を繋いだ男の子と女の子が見つけてくれたんだ。
「見て! 虹だ!」
「ほんとだー」
 虹。男の子は僕を優しそうな眼で見て、そういった。にじ。僕は虹、虹っていうのか! 嬉しくて、嬉しくてもう一色すぐにでも増やせそうな気すらしたよ。人間が僕を僕として名づけていた! 初めてずっとそこの場所にいたいと思った。だけどその二人はさらに僕にプレゼントをくれた。
「誕生日に虹が見れたー。なんかうれしー」って隣の女の子が囁いたんだ。その眼は男の子とは違ってキラキラしてた。誕生日って言葉はそれで知ったんだ。意味も別の日にわかった。
 それから僕はさぼらないことにしたんだ。人間のそばにもっとたくさんいたい、って心から思った。
 ある時は僕を見て泣いた女性がいた。ある時は僕を見て笑った老人がいた。ある時は男の子たちが僕を見てはしゃいだ。ある時はカメラを首にぶら下げた女の子が僕をファインダー越しに写した。ある時はギターをもった男の子が歌とかいうふわふわした、不思議な魔法にのせて、虹って言葉を、放り投げた。ギターの弦が弾かれるたびに、男の子は口を開けて、空気が揺れて、風が踊った。
 僕が生きた六年で一度として同じ日はなかった。一度として同じ反応をした人もいなかった。
 ようやく明日七色になれる。
もう一年も生きられないわけだけど後悔はしないと思う。きっと毎日違う色で彩られた世界を見ることが出来るから。世界はだって、七色どころじゃないからね。



 本日は、100s(ひゃくしき)の『希望』を元にしています。この歌は聴き手に、歌い手がストレートに呼びかける歌です。印象的なのは――なんで何も言わない? おれはオマエをずっと好きだぜ ―― この歌を聴くと本当に、一日一日を無駄にしてはいかん! と思います。
 あと、歌い手が聞き手に呼びかけるように、作り手が読み手に語りかける感じにしてみました。どうでしたかね。ロマンチック過ぎたかな、虹しゃべるってなんだよな(笑)。
 次回はなんと、読者からのリクエスト曲をまたやりまーす!

by tokyo_tenjiku | 2009-09-30 16:37 | 勝手にロックンロール