東京天竺とは、文化学院小説ゼミの有志で始めた同人誌。小説やエッセイ、漫画などを掲載。詳しくはカテゴリ『東京天竺1号』『東京天竺2号』ご覧下さい。


by tokyo_tenjiku

第2回突撃!隣のフェティシズム『不治の愉楽』

『不治の愉楽』 大坪覚





この文章は3月初めに書いている。毎年恒例の花粉症の季節である。悩まされるようになってから、もう20年以上になるのだが、ここ数年はともかく、やられていた時期が長かった。涙、かゆみ、呼吸困難、睡眠不足、不機嫌、集中力皆無が一度にやってきて生活にならない。15年ほど前、当時の職場で新宿に名医がいると聞き、住宅地の中の実に古びた、小津映画に出て来るような小さな耳鼻科へ駆け込んで診てもらった。「これはひどいね」と大正時代から診察してきたような、動じない感じの、きれいな白髪をきりっとまとめた女医さんが言う。そして嬉しそうに「ちょっと強いけど、イギリス製のいい薬があるんだよね、試してみる?」とのたまった。こちらはイギリスだろうがドイツだろうが全然構わない。この苦しみが止まるならなんだっていい。で、ありがたくいただいてきた薬は、全く効かなかった。あれは一体なんだったのだろう。その後は投げやりに、どうせ連休明けたら止まるんだからと、ただ鬱陶しい春を毎年過ごした。が、ある時、適当に、パブロン鼻炎カプセルSを買って服用した。これが効いたのである。あれほど悩まされてきたのが信じられないくらいよく効く。今では春先になれば今年もパブロンを大量に買う季節だなと考えるようになった。たまに、うっかり飲み忘れて少し身体がぼおっとしてクシャミが始まると、あの薬さえ飲めば治るのだと、ジキルとハイドのような妄執に襲われる。そして、飲んだ後に少しずつ、確かに症状が治まってくる感覚が面白くて仕方がない。誰にでも効果があるわけではなく、偶然、私の症状がこの薬のストライクゾーンだったのだろう。好きなものというレベルを超えて、私の中では神格化が進んでいるのだが、この効き目が続く限り、事前治療など目もくれず、ドラックストアに通うだろう。




硬派で説得力がある文章とは裏腹に、思わぬ方向に転がり、思わずクスっと笑ってしまうようなお話でしたね(私だけ?)次回更新日は3月26日(金)です。
第3回目のゲストは大坪さんからのご紹介で、伊藤未樹さんとなりました。
以下は、大坪さんからの伊藤未樹さん紹介文でございます。

”伊藤未樹さんは「説得力のあるひと」である。
あの時あんな風に言ってたことはこれだなあと
何度も腑に落ちている、私は。今はOLが忙しくて
文章を書くことと距離が出来ているけれど、あの
観察力で日々ネタを増やしているに違いない。”

さて、一体どんなフェティシズムを見せてくれるのか、注目です。


なお、引き続きお買い上げいただいた方からtokyo_tenjiku@excite.co.jpへのご連絡をお待ちしております。こちらをご覧下さい。

[PR]
by tokyo_tenjiku | 2010-03-12 13:15 | 突撃!隣のフェティシズム