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東京天竺とは、文化学院小説ゼミの有志で始めた同人誌。小説やエッセイ、漫画などを掲載。詳しくはカテゴリ『東京天竺1号』『東京天竺2号』ご覧下さい。


by tokyo_tenjiku

勝手ロックNO.25(甲)

「咲きっぱなし」

 高橋です。毎日色々思います。何も思わない日は無いようです。思ったことを少しでも忘れないように。

 電車に親子がいました。
 一歳か、二歳か、身近に子供がいないのでわかりませんが、ベビーカーに乗せられた少女を、
 ドアのそばで、夫婦があやしていました。夫婦は荷物が少しある。奥さんはリュックを背負っていて、片手には少女の好きなものなのでしょう、ぬいぐるみを持っていました。旦那さんも丸い鞄を背負って、片方の手に紙袋をぶら下げ、もう片方は、ベビーカーのハンドル。
 荻窪に電車が停まると席が空き、旦那さんは奥さんを席へと促がしました。
 奥さんは旦那さんがぶら下げていた荷物をうけとり、そのまま、空いた席に座ろうとします。
すると大人しかった少女が途端に泣きだす。
「ママ、いかないで。ママどこいくの」
ベビーカーが寄せてあるドアと平行にある席に奥さんが座ろうとしたために、手すりが壁になり、少女の視界から母親が消えたように見えたのだと思います。
座ろうと思ったママ、は、即座に席を立ち、少女の前に戻ります。ベビーカーの前で屈んで、静かに、
「ママどこにもいかない。ここにいるよ」

 旦那さんは奥さんと娘の様子を見て、深い息をつくと、ベビーカーから手を離し、空いた席に座りました。奥さんの持っていた荷物を手に取り。
 駅をいくつか過ぎて、
 しばらく、
 僕の脳みそから、心の方へ、ひとしずく、
「いかないで」と「どこにもいかない」が、
 静かに落ちて、
 波紋を広げるように、
 流れる景色と溶け込んで、
 僕は思い出します。
 昔、同じだった。今も成長していません。
 離れることに耐えられない。


 一年間半ほど、同じ場所で働いた友人が昨日を最後に、辞めてしまいました。
 たくさん。
 話をしました。
 居酒屋や。仕事の終わりに。映画に行った。焼肉。東急ハンズとか。カラオケで先輩が歌を歌っているのをよそに。新宿から東京駅に向かう電車の中。
 電話をかけたり。
 桜の下とか。
 
 まるで恋人のような。そんなことはないのだけど。
 それでも優しい人だったから。
 僕はよく甘えました。
 世間が、出会いと別れを繰り返して大人になるのだと告げようと、
 社会が人は流れていくものだと、時間を流してしまおうと、
 咲いた桜が、必ず散ろうと、
 僕は、出会った人とは出会いっぱなし、がいい。な。

 エネルギーの無駄遣いで、環境に悪かろうが、出会ったままでいられるのなら、ずっと、であいっぱなし。で、いたい。

「いかないで」
「ここにいるよ」

 まるで母から千切れた子供のように、
 僕は、あらゆる繋がりと別れられない。
 あぁ、僕は、
 いつまでも、
 いつまでも、甘えん坊。

 だからね、
 作家になって本を売るから、
 千切れてしまったみんなは、
 僕の本を手にとって、
 また、
 作り話に、花を咲かせようよ。


 次回はthe pillowsの楽曲を小説にします。

なお、引き続きお買い上げいただいた方からtokyo_tenjiku@excite.co.jpへのご連絡をお待ちしております。こちらをご覧下さい。
by tokyo_tenjiku | 2010-04-14 22:16 | 勝手にロックンロール