東京天竺とは、文化学院小説ゼミの有志で始めた同人誌。小説やエッセイ、漫画などを掲載。詳しくはカテゴリ『東京天竺1号』『東京天竺2号』ご覧下さい。


by tokyo_tenjiku

第12回突撃!隣のフェティシズム/『隣の席のフェティシズム』

『隣の席のフェティシズム』アキラオイカワ





店の扉を開ける。店内にはあたしの靴の音が響く。客は少なく、大学生とおぼしきウェイターがひとりせわしなく動いている。座るのは壁際のあの席がいい。少し離れた隣のテーブルに男がいるが、構わない。座ってほどなくして注文を聞かれるが、今日のデートの相手を待つ事にし、水だけを飲んで一息つく。

しばらくの間、店内を見るでもなく見て、聞くでもなく聞いていると、もっと照明は暗くていいとか、ウェイターの動きが目障りだとか、小さな事が気になった。空腹感で神経が過敏になっている。あたしはこんなあたしが嫌いだ。待ち合わせまで大分時間があるが、この空腹感をやり過ごせるだろうか…。

しばらくそうしていると、あたしはそれに気付く。向こうのテーブルの男の様子がおかしい。全く動かないのだ。いつからそうであったのか分からないが、男は全く動かない。ビールの入ったグラスを手にしたまま、テーブルに肘を乗せ、グラスの端に口を押し付け、隣の席の男はずっと何かを見つめている。視線の先にはフォークに赤いものを巻きつけている白いブラウスの女。若くもなく、中年というでもない女が、誰からも遠いところに座り、食事をしている。男はそれをなおも見つめて動かない。

トイレから人が出てきて男のテーブルに座る。同僚らしきその男に向かって、動かない男が独り言の様に話し始める。「ナポリタンって、エロいな…。」飛び込んできたその台詞に虚をつかれ、あたしは目をそらす。それでも、視界の端に男たちを置いて、なぜか耳だけはまっすぐ立てている。声が隣のテーブルのあたしの耳に届いているのも知らないで、男は遠くのテーブルの女がスパゲッティ・ナポリタンを食べるのを見つめながら、ゆっくりと喋り続ける。「…なんか赤くなってさ、口が…、口って、粘膜って…、そんなの見せ付けられるのって…、食べてる時とアレの時ぐらいじゃない? 」

男たちがビールを飲み干し店を出て行くと、あたしは店の静寂に放り込まれる。あたしは “見知らぬ男のきわどい告白を盗み聞きしてしまった” というちょっぴりの罪悪感と “ナポリタンがエロいか?” という大きな疑問に悩みつつも、待ち合わせ時間ピッタリにやって来た意中の男の前で、余韻たっぷりにナポリタンを食べてみる。





いかがでしたでしょうか。フェティシズムしっかり漂う初の物語形式。私はまさかこうした形で送られてくるとは思わず、予想を裏切られなんだかやる気でました。心地よい裏切られ方でした。今後もそういう方に会いたいです。このコーナーは制限していないので、もしかしたら、動画や音楽なんかもその内出回る可能性も・・・?しかし、アナログ人間ばかりの編集部に対応できる人がいるのか、そちらの方が心配(^^;)

さて、次回のゲストは!?

「アキラオイカワが紹介する次回のゲストは、池谷薫子さん。

あるときは舞台で歌い、演じ、
またあるときは極度の人見知り、
そしてまたあるときは一児の母。
しかしどんなときでも彼女は悶えています。」

次回更新日は、20日です。
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by tokyo_tenjiku | 2010-08-06 14:19 | 突撃!隣のフェティシズム