東京天竺とは、文化学院小説ゼミの有志で始めた同人誌。小説やエッセイ、漫画などを掲載。詳しくはカテゴリ『東京天竺1号』『東京天竺2号』ご覧下さい。


by tokyo_tenjiku

第18回突撃!隣のフェティシズム/『さわるためのおっぱい』

『さわるためのおっぱい』大橋洋介




おっぱいが好きだ。
 と言うとなんかロコツでやだな……。
 女の人の胸が好きだ。
 形も、感触も、大きさも、色も、材質も、温度も、数も、動きも、匂いも、何もかも。
 大きくても小さくても、やわらかくてもかたくても、白くても黒くても、温かくても冷たくても、ひとつでもふたつでも、ゆれていても止まっていても、なんでも。
 とにかく、いつなんどき、だれのものでも、どんなものでも、僕はおっぱいが、いや、女の人の胸が好きだ。
 と、そう、思っていた。
 ついこないだのこと。友達夫婦のところに子どもができたので、見に行ってみた。かわいらしい、小さな男の赤ちゃんだった。
 しばらく夫婦と話しこんでいると、赤ちゃんが火災報知器のように突然泣き始めた。
「あらら、お腹がすいたのね」と母親は言って、突然シャツのすそをがばっとあげ、胸をむき出しにして、赤ちゃんに母乳をあげ始めた。
 僕はどぎまぎして目のやり場に困ってしまったのだが、母親も父親もまるで僕のことは気にしていなかった。
 僕はちらちらと盗み見するように母親と赤ちゃんの姿を見た。
 赤ちゃんは必死におっぱいに口をあてて、母乳を飲んでいた。母親はその赤ちゃんの姿をやさしく見守っていた。
 それが終わったら赤ちゃんはおとなしくなり、母親は服を元に戻して、何事もなかったかのようにまた会話を始めた。
 なぜか、その時以来、あまりおっぱいに興味がなくなってしまった。テレビで水着の女の子が出ていても、通りすがりの女の子の服の胸元があらわになっていても、目を奪われることはなくなった。
 どうしてなのか、自分でもよくわからない。
「なんでだろう?」と僕は妻に訊いてみた。
 妻は不思議そうな顔をして僕の顔を見ながら、「もしかして、おっぱいってさわったり見るためだけのためにあるものだと思ってたんじゃない?」と言った。
 僕は黙って少し考えてから、「なるほどね」と答えた。





[次回ゲスト紹介]11月12日更新予定。
つばきさん。犬のような猫のような、肉食のような草食のような、少女のようなおばあちゃんのような、青空のような雨のような、そんな女の人です、ってこないだうちの猫が言ってました。
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by tokyo_tenjiku | 2010-10-30 18:14 | 突撃!隣のフェティシズム