東京天竺とは、文化学院小説ゼミの有志で始めた同人誌。小説やエッセイ、漫画などを掲載。詳しくはカテゴリ『東京天竺1号』『東京天竺2号』ご覧下さい。


by tokyo_tenjiku

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勝手ロックNO.30(乙)

「記憶喪失訪問販売」

 ノックが、しつこいほどくりかえされ、郵便ポストが破壊される音も聞こえ、挙句チェーンソーの起動音まで聞こえ始めたので、居留守を諦め、ドアを開けた。
 ドアの前にあったゴミ袋や嵌められていたポスト、窓にかけていたビニール傘などがめちゃめちゃにされていた。頭のいかれたセールスマンは、どこからどうみても地球人で中年のオスにしか見えなかったのだが、グレイだ、と一番メジャーな宇宙人の俗称を名乗り
「背が低いのはそのせいでス、こういうやり方もわたしの星では至極当たり前でス」
 と小柄であることの言い訳や器物損壊の自己弁護をした。彼(?)は続けて持っていたチェーンソーを床に下ろし、重そうにぶら下げたショルダーバッグから湿った一枚の紙と錠剤の入った瓶を無理やり僕の手のひらに握らせた。
「あなたがこの薬を買うでショ? そうすると、どうなると思いまス? いってみてくださぃ? シシシッシ」
 無理やり握らされようと、宇宙人の手から離れればもう自分に所有権が移ったのだと思い、お辞儀をしてドアを閉めた。
「あ、チョットォ!」
 ドアの向こうでまたウィーンと、モーター音が聞こえた。穴をあけられたくはないので、再びドアを開く。うんざりだ。
「何で閉めるんでス? バカですかアナタァ! 説明もしてないしお金もはらっていないじゃナイデスカ!」
「お金かかるならいりません。じゃ」
 薬と紙切れを、自分がやられたように、無理やり宇宙人に受け取らせ、またドアを閉めようとした。宇宙人がむりやり腕を突っ込んできたので挟んでしまった。耳をふさぎたくなるような悲鳴を上げた。挟まれた腕を見て初めて、指が三本しかないこと、三本の内一本の長さが異様に短いことに気づいた。仕方ないのでまたドアを開ける。
「話だけでも聞いてくださいヨお客さん! イタイナヒドイナ! コロスキカ! いいですカ? この薬はすごいんですヨ! 全て忘れまスヨ! 嫌なこと、けしたいカコ! とらゥマ! みんな忘れられますヨ! そしていいことだけ記憶に残っていまス! カコは変えられません! けど記憶を消してしまうとユゥ、発想のテンカイ! ん? てんかん? シシシシ! これがなんと一錠たったの……」
「すぐ効くんですか?」
「え?」
「飲んだらすぐ効くんですか?」
「あ、はい、キキマス! 即効性! それも売りでス! さすがお客……」
 宇宙人がしゃべっている間に、瓶をもぎ取り、蓋を開け、手に振り落とした十数錠をしゃべっている宇宙人の口に突っ込み、また不快な悲鳴を上げているのも無視し、顎を掴んで飲み込ませて、ドアを閉めた。宇宙人は「ぺぴぽぱぷ」とむせていたが、大人しくなった。
 しばらくして聞こえてきた宇宙人の声は、隣の家の主人の名前を叫んでいる声だった。
「記憶消えてねえじゃんか」
 
 ……どっと疲れた。

 ドアに背中をはりつけてそのまま座り込んだ。
 忘れたいことと忘れたくないことなんて、たいてい、くっついている。

 単身赴任先の、地球からはるかに離れた惑星で、僕はまた、君を思った。
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by tokyo_tenjiku | 2010-06-30 22:20

勝手ロックNO.30(甲)

「Lv.25」

 僕の半分は“やさしくなりたい”でできています。高橋です。
 数日前の誕生日を過ぎて、僕はとうとう25歳になりました。
 四捨五入したら、30歳でございます。
 先日サッカーワールドカップ、カメルーン戦で本田圭佑選手がゴールを決めたわけですが、なんと彼、僕と誕生日が一緒でした(けいすけという名前まで同じ)。しかも、一つ年下という。同じ時を歩んでいたという。
 ぬはっ! 焦燥感!
 あぁ、みんなどうやって、Lvをあげているの?
 スライムは、どこにいるの?
 年下の、レベルの上がる音が聞こえても、
 別の誰かがイベントをクリアしていても、
 僕は未だにLV.25、
 万人に与えられた、「時間」だけ、もらうばかり。
 ある時は目に見えない魔物にやられ、最初から。
 ある時は誰が見ても気づくようなトラップに引っ掛かり、最初から。
 そのつどそのつど、いったい、どれだけの経験値を得たのかが、わかりません。
 それでも読んでいたり、書いていたり、しているのです。
 僕は、なんとか冒険を続けたいのです。

 最近は、太宰治と星新一でレベル上げをしています。
 日曜日に、星新一展に行きます。最終日です。混んでいないといいな。
 星新一さんは、東京天竺創刊号でも取り上げたので、
 ツイッターで、星新一なう! とか書いてやろう、と、もくろんでいます。

 レベルが上がるかはわかりませんが、本を読むのは、それだけ、考えるので、いいですね。
 太宰治の、「東京八景」(新潮文庫の「走れメロス」に収録された一遍)は、
 彼を知る一番いい小説かもしれません。
 それによると、
「晩年」(処女作「思い出」収録 新潮文庫)という初期創作集は、彼の毒を洗いざらいぶちまけた、遺書なんだってさ。
 暗くて、死にたがりの彼が書くものは、一見、近寄りがたくて、読んだら傷が残りそうだけど、
 どんな人でも持っている、見えない何かを、震わせます。

 来週はユニコーンの楽曲を小説にします
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by tokyo_tenjiku | 2010-06-23 22:48 | 勝手にロックンロール
『わすれもの』長田麻実子

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by tokyo_tenjiku | 2010-06-18 11:43 | 突撃!隣のフェティシズム

勝手ロックNO.29(乙)

「ごめんね」

 僕らは愛し合う。何も問題はない。地球が明日で終るとしても。「もう一度しよう」をもう何回繰り返したかわからない。アイスクリームみたいに溶けあうという甘い言葉で虫歯なってしまいそうだ。激しく繰り返している内に彼女の声の色っぽさは増して、艶っぽくなり、全部真実でなくても構わないと思わせる。最高の女の子。彼女の汗の味も唇の味も蜜の味もミシュランに査定して欲しいね。抱き合っている今この瞬間すら二度とこないのだから僕は毎日毎時間あげく毎分毎秒彼女の体以外に興味が無い。ほくろの位置も肌の色も髪の長さももう全部が僕をぱっぱらぱーにしやがる。僕も君を、いかれさせたい。絶倫とかそういう意味ではなく、僕に夢中になって下さい、と、とにかくそういう意味だ。繋がっている最中の彼女の顔は僕をどこまでも連れて行く。彼女は宇宙の銀河の果ての奇跡をきっとすでに知っているんだろう。銀河鉄道がいけないところへ僕を運んでいく。アポロがたどり着けなかった地面に僕の足跡をつかせる。僕と彼女の愛は偉大だ。そんじょそこらの物と訳が違う。僕と彼女は春よりずっと多くの命に巡りあえるし、夏をはるかに超越した情熱は高温で、秋をも「うるさい」と静かになおかつ色鮮やかに諭し、冬が悔し紛れに笑ってしまうくらい一面綺麗な銀世界を表現できるだろう――
  ……と、
 いうようなことを思いながらボニーとクラウドは愛し合っているんだ。

 どこからか女の喘ぎ声が聞こえてきたので、僕はそんなことを真美子ちゃんにきかせてあげようかと思った。 彼女は固まっていて動かない。持っていた漫画から視線を外さないようにつとめている。
 僕と彼女は漫画喫茶のペアシートに座っていた。
『あんあんっあんっ……』
 店内にいやらしい声がこだまする。誰かがネットでエロ動画でも見ているに違いない。家でみろ、と思う。
  真美子ちゃんの頭は今パニックなのだろうな。僕との間に透明な膜があるようだ。彼女は少しだけ震えているようにも見える。
『お客様ぁ? お客様ぁ? 他のお客様のご迷惑になりますので店内ではヘッドフォン着用をお願い致します!』
『はいはい! ごめんなさいねえ!』
 若い店員の声とおっさんの大きな声が交互に店内に響き渡り、喘ぎ声は聞こえなくなった。どこかで笑い声が微かに聞こえる。
 すでに十分迷惑かかったわボケ!
 と叫びたくなった。
  隣で、僕の好きな子が、表情が見えないように、これでもかと顔を漫画に近づけている。
 ページがずっとめくられていなかった。
 彼女はゆっくり、息をしていた。

 あのね。
 僕のせいではないよ。僕のせいじゃないけどさ。でも、なんか……。
 ごめんね。
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by tokyo_tenjiku | 2010-06-16 23:27 | 勝手にロックンロール
「知識自慢」
 神懸りてきに眠いです。高橋です。

 男はいつでも、こういうことを僕は知っている、といいたいものだ、ということで男高橋が知っていることを言います。
 シングルでもアルバムでも構いませんが、みなさん、CDを買って、中を開け、CDが嵌められている方の、扉でない方ね、そのプラスチックが、黒、あるいは濃い色で塗装されている場合(大概が透明)、そのままにしているのはもったいないですよ。
CDを取って、プレイヤーに入れてその音楽を聴きながら、ケースを分解してみましょう。
くるりでいうところの「アンテナ」というアルバムでは、ジャケットが黒いので、もうすでに中に隠された表現がある、と気づくわけです。
 蓋になる部分を外し、黒いプラスチックを、鋭利な刃物か、細くて硬いものを壊さぬよう丁寧に隙間に差し込み、てこの原理で、かちゃん、と持ち上げると、隠された地図が!
 どんな地図かは「アンテナ」買って、確かめてね。

 
 さあ、早く君も自分の好きなミュージシャンのCDジャケットを確かめるのだ! 開けたCDケースの半分が透明でなかったら、杉田玄白のごとく解体して新たなる表現を見つけるのだ!
大概が、ミュージシャンの茶目っ気だけどね。

 バンプオブチキンのシングルをなんとなく買ったら、片方が黒くて、思い出した知識でした。黒いプラスチックケースに隠されたものは委員長の……ま、気になる人はそれも買ってね。

 男はいつでも、こういうことを知っている僕、を褒めて欲しい生き物である、ということでわざわざだらだらと書いたのでした。

 そうそう、今年もロッキンのフェスのチケット買ったんだ。今から楽しみだー! 日に焼けないように今度は注意するぜ。


 来週は毛皮のマリーズの楽曲を小説にします。
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by tokyo_tenjiku | 2010-06-09 22:22 | 勝手にロックンロール
『深夜の営み』藤堂美香

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by tokyo_tenjiku | 2010-06-04 11:09 | 突撃!隣のフェティシズム

勝手ロックNO.28(乙)

「売れない歌」

 人間が値段をつけられる場所で育った僕と妹と彼女の物語を話そうと思う。
 少しだけだけど。
 僕らの国では二十歳になったとき値段をつけられる。つけられた価格はそのまま、僕らの将来を決める。もちろん、価格は年をとるごとに落ちる。
「年をとりたくない」
 二十歳前の妹は泣きながら言う。
 僕らを見てきたからだと思う。全ての人間に目に見える価値をわかられてしまう不思議な制度は、尊敬や軽蔑をある部分では複雑にして、ある部分では簡単にした。
「お兄ちゃんより、高くてもいや。でもお母さんやお父さんより低いのもいやだし家族で一番低かったらもっといや。価値なんて知りたくない!」
 妹はまるで僕ら家族に責任があるかのように家を出た。
「そういう法律なのだから仕方ないだろう」
 全てを諦めている父さんは追いかけもしなかった。56歳、764万円。母さんは公園まで追いかけたけれど、捕まえられなくて戻ってきた。54歳、6××万円。母さんは僕が生まれてこのかた、母さんの正確な価格を教えてくれたことがない。「お父さんより百万円くらい低いのよ」としかいわない。市役所に行けば僕でもわかるのだろうけど、もし父さんより高かったら、と思うと行けない。
「つけられた価格なんて嘘っぱちだ! 気にするなよ」
 かつて僕はそんなことを妹にいった。的外れな助言だったみたいで、もう二年、妹は帰ってこない。

 現在僕は23歳。二十歳のときにつけられた価格は4523万。それ以降自分の価格を調べていないけれど、当時の父さんより高かったのでほっとしている。
「男なんて馬鹿ばかりじゃない」
 そういったのは二十歳のときに付き合っていた彼女の科白だ。
 彼女の価格は7981万円。
 僕よりずっとずっと高かった。彼女は僕と出会ったとき、すでに価格がついていて、価格がつく前の僕に恋に落ちた。査定待ちをしている気分だった彼女は、一体僕の何に期待していたのだろう。
「結局、貴方が気にするんだから。私が気にしなくても。だってそこらへんの夫婦をみてよ。男は9割、自分より低い女を選んでいるのよ」
 彼女はそう言って、僕との別れを納得させようとした。彼女自身は、選んだ相手が自分より低価格であっても気にしないようなそぶりをしたけど一番気にしていたのは彼女だと思う。
 性別で価格差はないと社会は主張しているはずなのに、夫婦の9割、夫の方が高いというのは変な話だ。
 価格制度で女はより神経質になった。
 男は馬鹿になった。

 妹は幾らだったかな。
 もう二十歳になっているはず。
 聞こえる?
 兄は歌っているよ。兄の価値はきっと大学生だった頃より大暴落している。今の父さんより低いかもしれない。でも知らない。
 
 街に歌を撒く。種のつもりだ。聴く人たちの中で育つように。不思議にあふれた光で育つなら悲しい涙も養分になると思う。
 誰かにつけられた価値なんて気にするな。
 僕は同じことを歌う。
 この瞬間が、100億円も100兆円も遙かに越えた幸福になるように。
 
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by tokyo_tenjiku | 2010-06-02 22:21 | 勝手にロックンロール