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東京天竺とは、文化学院小説ゼミの有志で始めた同人誌。小説やエッセイ、漫画などを掲載。詳しくはカテゴリ『東京天竺1号』『東京天竺2号』ご覧下さい。


by tokyo_tenjiku

第十五回 勝手にロックンロール

 こんにちは。罵詈雑言(ばりぞうごん)をつい最近までずっと、ばじぞうごん、だと思ってました。高橋です。しかしその恥のおかげで二度と読めないことはないでしょう。

 前述で更新しましたが、二号発売まで、目前です。掲載されているもののタイトルをとりあえず紹介したわけですが、それだけでも十分バージョンアップした内容であることが伝わったはず。
 まぁ、今後の更新としましては、それぞれの内容に触れてしまうと買っていただけない恐れがあるので(笑)、触りを小出し小出しにしていけたらいいですね。引き続きブログは気が向いたときに読んでいただけるとうれしいっす。
 僕の小説ものっとります。は、勝手にロックンロールのような何かを元にしたものではなく、無から作ったつもりです。もし、勝手にロックンロールのファンがいて、オリジナル小説も読みたい、なんてな人がいたら、ぜひお買い求めを!!そんな夢のような話があるのか??
 それでも億が一の可能性に賭け、僕の小説のファン様、いっらしゃるようでしたら、文学フリマ、当日売り場にもいるので声かけてくださーい。わーいわーいと、シェイクハンズしたいです。日本人は一億三千万人いるらしいし、せめて、一人くらい……どうかなー。
 
 さて、勝手にロックンロールです。
 もはや私的なブログと誤解されかねないですが、それはそれ、このコーナーはこのコーナー、ということで、適当な高橋の近況を。
 映画「青い春」をDVDでみました。松本大洋原作豊田利晃監督作品です。松田龍平かっこよすぎ。あんな雰囲気を醸し出す男に生まれたかった! 原作で印象的だったシーンがスクリーンにそのままで映されていて驚いた。監督さんの”ここを印象的に映そう“という狙いと、僕の”ここが良い場面”だ! が一致したのですね。たまたまなのか、監督が狙い撃ちしたのか、後者であるんだろうと思うと、監督ってすごいです。恋がしてー! って叫ぶ青春もいいけど、誰が番長か殴り合って決めようぜ、っていう青春も、男子ですから、憧れます。
青春映画を見るたびに、青春作品を読むたびに、僕の青春は霞んでしまう! 僕はなーんもなかったよー、と思わずにはいられないです。でも、片想いもしたし、殴りたかった奴もいたんだけどね。
 で、書いてみました青春小説。こんな青春(MOREをクリック)ってどんなだろ?




 友人はトロール

 僕の好きな加賀ゆかりさんが実は嫌な奴だという噂が流れて、それでも好きでいる気持ちが打ち消せなくて、アダルトビデオを空の下で見たい気分だった。外ではテレビをつなげない。
 妖精がいるなんて思いもしなかった僕は、多摩川の土手で、現状をドラマチックにするために、彼女への中傷をロマンチックにするために、つまり感傷に浸るために、寝転がって、流れ星を見上げていた。急に肩を叩かれてふりむいたらそいつがいた。
「ねがいごとをかなえてやるよ」
 暗がりにもわかる緑色の肌と、小さな目がひとつだけの顔に、細い足が二本関取みたいな腹から出ていることから人間でないことは明白だったが、とても妖精だとは思えなかった。腕は右手と左手で指の本数が違った。
 僕が驚いて起き上がるとそいつは歯のない口を開けて、きゃはははと笑い「妖精だから、妖精だから、とって食ったりしないから」と馬鹿にされた。
 僕は慌てて叫んだり、落ちついて彼を触ってみたり、幾つかの問答を繰り返して、彼がトロールだということと、何億光年はなれた場所から気まぐれに来たことなどがわかった。妖精とはつまりみんな地球の外から来たものらしいことを彼は教えてくれた。
 昔の小説にある魂の交換もなしに、願いを叶えてくれるといってきたので、とりあえず僕は「好きな人をいい人にして欲しい」と頼んだ。
 口に出した瞬間、トロールの影に僕と彼女のこれからの十年が、あるいは二十年が、隠れてしまった気がした。トロールは笑って、一本締めをするみたいに、手を叩いた。

 トロールはその日から土手に住んだ。
 他の人間はトロールを見つけても、大して驚きもせず「トル君」なんてかわいらしい愛称までつけて、彼を人気者にした。何故か彼を異常なものとして見るのは僕だけで、むしろまるで彼らのような存在を知らなかった僕が無知だったのであるかのようなそぶりを他の人たちはした。
 僕の願いはかなったのかどうかまるでわからず、相変わらず彼女とはしゃべれないままだし(それは願い事に関係なく僕自身の問題だが)、はたから見る印象にも何の変化もなく、高校生活は最後の年になり、噂はひと月に一回ほど、いい噂も、悪い噂も同じように耳に入り、僕は無駄にそわそわした。

 一年たった頃、トロールは土手に小さな灯台を立てた。川の土手だ。船なんて通らないのに。「星に安心した。きゃははは」とトロールはいった。
 なんだか将来が漠然とせず、毎日不安であることが、トロールを見ていると馬鹿らしくなる。噂の立ちやすい、僕の好きだった例の彼女は、クラスで一番ヤンキーになっていた。だけどすでにどうでもよく、トロールと遊ぶのが楽しくてしょうがなかったせいで、忘れたのだ。
「ねがいごとをかなえてやるよ」は彼の口癖だったみたいで、出会った人間みんなにいっていたことがわかった。がっかりしたわけではないけど、いつか機会があるかもしれないからと、新たに考えていた全く別の願いごとは、忘れることにした。
 灯台は近所の高校生や中学生のデートスポットになった。誰が書き始めたのか灯台には相合傘がたくさん書かれるようになった。トロールはカップルを面白がって、不思議な魔法を使って楽しませたり、反対にカップルの男の子の前にわざと裸の女の子の幻覚を見せたりして困らせたりした。トロールは僕たちの言葉がわかるくせに文字が一つも読めなくて、文字だらけになる灯台が、とても嬉しいようだった。
 僕が初めてできた彼女とそこへいったときに書いた文字は「小説家になる!」という決意だった。僕の彼女は「いつまでも一緒にいられますように」と書き、なんだか、絵馬みたいだ、と思った。

 八年たち、僕は小説家としてデビューすることが決まった。一人暮らしを始めるために土手を離れなければならず、僕はトロールにお別れを言おうと思った。
 五年ぶりぐらいに土手に来ると、灯台は落書きで埋め尽くされていた。
「丁度今から帰るんだ。きゃははは」
 灯台だと思っていたそれは実はロケットらしい。操縦席はどこなのか、首を傾げていたら、灯台に似たロケットが突如水平に倒れて、トロールは馬に乗るように灯台型ロケットにまたがった。そんな乗り方か。科学とか機械とかが馬鹿らしくなるね、妖精君。
「楽しかったかい?」
 トロールがにんまりとしていった。父親が娘と遊んだ最後にたずれるような口ぶりだった。
 太ったトロールがまたがる姿は意外と可愛らしかった。両手が灯台の曲線をしっかりと掴んでいる。別れを告げるはずだったのは僕だ。悲しいのとも寂しいのとも違った。ただ、別れたくなかった。
「その時になって答えるよ」
 僕が意地悪にもそう答えると、彼はまた「きゃはははは」と笑う。
 相合傘がたくさん書かれたロケットは、炎を吹き出し、あっという間に見えなくなった。
 きっとトロールは、銀河をぬけて、違う星の誰かの遊び相手になる。
 僕は新しい遊び相手に、少しだけ、嫉妬した。


 今回はミッシェルガンエレファント(スペルめんどいからカナで)の「デッドマンズギャラクシーデイズ」でした。なんつーか、書いてて気づきましたが、僕ロケットとか空飛ぶもの好きみたい。もっとがちゃがちゃした音楽で妖精って感じじゃないのだけどね。「青い春」で使われている曲もほとんどがミッシェル。チバユウスケかっくいんだ。超好き。
 さて次回はすでに文学フリマが終わった12月10日。どんな結果になってるやら。楽しみです。皆さんも、楽しみに。

※諸事情により更新日を以前告知した日と変更しています。楽しみにしていたかた申し訳ありません。

by tokyo_tenjiku | 2009-11-25 18:44 | 勝手にロックンロール