勝手ロックNo.25(乙)
2010年 04月 21日
「WonderLand Is Hers」
星には国王様がいました。
世界にただ一人の国王でした。王様はある日言いました。
「この世界は、もうしばらくすると、自転をやめてしまいます」
星の人々は驚きました。いったいどういうことなのか、理解できません。
「徐々に、徐々に、回転速度は遅くなっています。暮している我々が自覚するのは難しいかもしれません。しかしありとあらゆる科学、智恵が回転速度の減速を物語っているのです。いずれ、そう遠くない未来に、この星は動かなくなり、世界は夜だけの国、朝だけ、昼だけの国に別れ、やがて滅びてしまうでしょう」
国王は嘆き、悲しみながらそれを告げました。実際に、その星では時計が役に立たなくなっているのです。
さて、星の余命告知が行われた同じ日、国王の発表に耳を傾けていた夫婦の一組がなにやら言い争いを始めました。言い争い、といってもそれは一方的なもので、それこそ告知となんら変わらないものかもしれません。
「世界を救わなければ、わたしは貴方と離婚しますわ」
言われた旦那さんは、元よりのんびりした人で、どれだけ突拍子のないことでも動揺せずに考える人でした。
「……うーん、ねえ君、世界が終ってしまったら離婚も何も関係ないと思うのだけど」
「じゃあ貴方は離婚をお選びなさるのね」
こう言われてしまっては、旦那さんもとりあえずいうことを聞くしかありません。
頭脳明晰な魔法使いの孫である奥さんがいうには“目覚めの魔法石”というものがあり、それが見つかりさえすれば、世界は救えるのだそうです。
この星での移動手段は、駝鳥にまたがるか、飛行船しかありませんでした。とても普通の家庭では手に入りません。
奥さんは旦那さんのために魔法で手動の翼を作りました。旦那さんはしぶしぶ、重くて操作の難しい翼を背負い、世界地図(これも奥さんの手作りです)を手にもって旅に出ました。
重たい翼をよっこらせ、よっこらせ。
手作りの歪な翼ではちょっとしか浮きません。それでも旦那さんは奥さんに言われた通り、“目覚めの魔石”を探します。
いつでも、偉そうで、ずけずけと物をいい、思い通りにことが動かないと、我慢ができない奥さん。
旦那さんは、やれやれまたか、なんて思うのですが、どうしてだか、逆らいません。
街を離れ、奥さんの書いた地図を広げると、ずいぶん簡単な世界の絵が描かれています。
端の方に『石、ここらへん』というまあるい目印。
旦那さんは困ってしまいます。
(ここらへん、が大きくてどこへいったらいいかわからないな……)
それだけでなく、地図の裏には、ミルク一瓶、アンチョビ三匹、チーズ100g、トマト3個とお買い物のメモがありました。
奥さんは、
これっぽちも、
未来を疑っていないのです。
旦那さんを疑っていないのです。
旦那さんは、世界中の祈りをよそに、とっても家庭的なことを思います。
(ミルクが腐る前に、帰らなければなぁ。)
いつだって星をまわすのは女性なのでした。
なお、引き続きお買い上げいただいた方からtokyo_tenjiku@excite.co.jpへのご連絡をお待ちしております。こちらをご覧下さい。
星には国王様がいました。
世界にただ一人の国王でした。王様はある日言いました。
「この世界は、もうしばらくすると、自転をやめてしまいます」
星の人々は驚きました。いったいどういうことなのか、理解できません。
「徐々に、徐々に、回転速度は遅くなっています。暮している我々が自覚するのは難しいかもしれません。しかしありとあらゆる科学、智恵が回転速度の減速を物語っているのです。いずれ、そう遠くない未来に、この星は動かなくなり、世界は夜だけの国、朝だけ、昼だけの国に別れ、やがて滅びてしまうでしょう」
国王は嘆き、悲しみながらそれを告げました。実際に、その星では時計が役に立たなくなっているのです。
さて、星の余命告知が行われた同じ日、国王の発表に耳を傾けていた夫婦の一組がなにやら言い争いを始めました。言い争い、といってもそれは一方的なもので、それこそ告知となんら変わらないものかもしれません。
「世界を救わなければ、わたしは貴方と離婚しますわ」
言われた旦那さんは、元よりのんびりした人で、どれだけ突拍子のないことでも動揺せずに考える人でした。
「……うーん、ねえ君、世界が終ってしまったら離婚も何も関係ないと思うのだけど」
「じゃあ貴方は離婚をお選びなさるのね」
こう言われてしまっては、旦那さんもとりあえずいうことを聞くしかありません。
頭脳明晰な魔法使いの孫である奥さんがいうには“目覚めの魔法石”というものがあり、それが見つかりさえすれば、世界は救えるのだそうです。
この星での移動手段は、駝鳥にまたがるか、飛行船しかありませんでした。とても普通の家庭では手に入りません。
奥さんは旦那さんのために魔法で手動の翼を作りました。旦那さんはしぶしぶ、重くて操作の難しい翼を背負い、世界地図(これも奥さんの手作りです)を手にもって旅に出ました。
重たい翼をよっこらせ、よっこらせ。
手作りの歪な翼ではちょっとしか浮きません。それでも旦那さんは奥さんに言われた通り、“目覚めの魔石”を探します。
いつでも、偉そうで、ずけずけと物をいい、思い通りにことが動かないと、我慢ができない奥さん。
旦那さんは、やれやれまたか、なんて思うのですが、どうしてだか、逆らいません。
街を離れ、奥さんの書いた地図を広げると、ずいぶん簡単な世界の絵が描かれています。
端の方に『石、ここらへん』というまあるい目印。
旦那さんは困ってしまいます。
(ここらへん、が大きくてどこへいったらいいかわからないな……)
それだけでなく、地図の裏には、ミルク一瓶、アンチョビ三匹、チーズ100g、トマト3個とお買い物のメモがありました。
奥さんは、
これっぽちも、
未来を疑っていないのです。
旦那さんを疑っていないのです。
旦那さんは、世界中の祈りをよそに、とっても家庭的なことを思います。
(ミルクが腐る前に、帰らなければなぁ。)
いつだって星をまわすのは女性なのでした。
なお、引き続きお買い上げいただいた方からtokyo_tenjiku@excite.co.jpへのご連絡をお待ちしております。こちらをご覧下さい。
by tokyo_tenjiku
| 2010-04-21 23:36
| 勝手にロックンロール