勝手ロックNO.28(乙)
2010年 06月 02日
「売れない歌」
人間が値段をつけられる場所で育った僕と妹と彼女の物語を話そうと思う。
少しだけだけど。
僕らの国では二十歳になったとき値段をつけられる。つけられた価格はそのまま、僕らの将来を決める。もちろん、価格は年をとるごとに落ちる。
「年をとりたくない」
二十歳前の妹は泣きながら言う。
僕らを見てきたからだと思う。全ての人間に目に見える価値をわかられてしまう不思議な制度は、尊敬や軽蔑をある部分では複雑にして、ある部分では簡単にした。
「お兄ちゃんより、高くてもいや。でもお母さんやお父さんより低いのもいやだし家族で一番低かったらもっといや。価値なんて知りたくない!」
妹はまるで僕ら家族に責任があるかのように家を出た。
「そういう法律なのだから仕方ないだろう」
全てを諦めている父さんは追いかけもしなかった。56歳、764万円。母さんは公園まで追いかけたけれど、捕まえられなくて戻ってきた。54歳、6××万円。母さんは僕が生まれてこのかた、母さんの正確な価格を教えてくれたことがない。「お父さんより百万円くらい低いのよ」としかいわない。市役所に行けば僕でもわかるのだろうけど、もし父さんより高かったら、と思うと行けない。
「つけられた価格なんて嘘っぱちだ! 気にするなよ」
かつて僕はそんなことを妹にいった。的外れな助言だったみたいで、もう二年、妹は帰ってこない。
現在僕は23歳。二十歳のときにつけられた価格は4523万。それ以降自分の価格を調べていないけれど、当時の父さんより高かったのでほっとしている。
「男なんて馬鹿ばかりじゃない」
そういったのは二十歳のときに付き合っていた彼女の科白だ。
彼女の価格は7981万円。
僕よりずっとずっと高かった。彼女は僕と出会ったとき、すでに価格がついていて、価格がつく前の僕に恋に落ちた。査定待ちをしている気分だった彼女は、一体僕の何に期待していたのだろう。
「結局、貴方が気にするんだから。私が気にしなくても。だってそこらへんの夫婦をみてよ。男は9割、自分より低い女を選んでいるのよ」
彼女はそう言って、僕との別れを納得させようとした。彼女自身は、選んだ相手が自分より低価格であっても気にしないようなそぶりをしたけど一番気にしていたのは彼女だと思う。
性別で価格差はないと社会は主張しているはずなのに、夫婦の9割、夫の方が高いというのは変な話だ。
価格制度で女はより神経質になった。
男は馬鹿になった。
妹は幾らだったかな。
もう二十歳になっているはず。
聞こえる?
兄は歌っているよ。兄の価値はきっと大学生だった頃より大暴落している。今の父さんより低いかもしれない。でも知らない。
街に歌を撒く。種のつもりだ。聴く人たちの中で育つように。不思議にあふれた光で育つなら悲しい涙も養分になると思う。
誰かにつけられた価値なんて気にするな。
僕は同じことを歌う。
この瞬間が、100億円も100兆円も遙かに越えた幸福になるように。
人間が値段をつけられる場所で育った僕と妹と彼女の物語を話そうと思う。
少しだけだけど。
僕らの国では二十歳になったとき値段をつけられる。つけられた価格はそのまま、僕らの将来を決める。もちろん、価格は年をとるごとに落ちる。
「年をとりたくない」
二十歳前の妹は泣きながら言う。
僕らを見てきたからだと思う。全ての人間に目に見える価値をわかられてしまう不思議な制度は、尊敬や軽蔑をある部分では複雑にして、ある部分では簡単にした。
「お兄ちゃんより、高くてもいや。でもお母さんやお父さんより低いのもいやだし家族で一番低かったらもっといや。価値なんて知りたくない!」
妹はまるで僕ら家族に責任があるかのように家を出た。
「そういう法律なのだから仕方ないだろう」
全てを諦めている父さんは追いかけもしなかった。56歳、764万円。母さんは公園まで追いかけたけれど、捕まえられなくて戻ってきた。54歳、6××万円。母さんは僕が生まれてこのかた、母さんの正確な価格を教えてくれたことがない。「お父さんより百万円くらい低いのよ」としかいわない。市役所に行けば僕でもわかるのだろうけど、もし父さんより高かったら、と思うと行けない。
「つけられた価格なんて嘘っぱちだ! 気にするなよ」
かつて僕はそんなことを妹にいった。的外れな助言だったみたいで、もう二年、妹は帰ってこない。
現在僕は23歳。二十歳のときにつけられた価格は4523万。それ以降自分の価格を調べていないけれど、当時の父さんより高かったのでほっとしている。
「男なんて馬鹿ばかりじゃない」
そういったのは二十歳のときに付き合っていた彼女の科白だ。
彼女の価格は7981万円。
僕よりずっとずっと高かった。彼女は僕と出会ったとき、すでに価格がついていて、価格がつく前の僕に恋に落ちた。査定待ちをしている気分だった彼女は、一体僕の何に期待していたのだろう。
「結局、貴方が気にするんだから。私が気にしなくても。だってそこらへんの夫婦をみてよ。男は9割、自分より低い女を選んでいるのよ」
彼女はそう言って、僕との別れを納得させようとした。彼女自身は、選んだ相手が自分より低価格であっても気にしないようなそぶりをしたけど一番気にしていたのは彼女だと思う。
性別で価格差はないと社会は主張しているはずなのに、夫婦の9割、夫の方が高いというのは変な話だ。
価格制度で女はより神経質になった。
男は馬鹿になった。
妹は幾らだったかな。
もう二十歳になっているはず。
聞こえる?
兄は歌っているよ。兄の価値はきっと大学生だった頃より大暴落している。今の父さんより低いかもしれない。でも知らない。
街に歌を撒く。種のつもりだ。聴く人たちの中で育つように。不思議にあふれた光で育つなら悲しい涙も養分になると思う。
誰かにつけられた価値なんて気にするな。
僕は同じことを歌う。
この瞬間が、100億円も100兆円も遙かに越えた幸福になるように。
by tokyo_tenjiku
| 2010-06-02 22:21
| 勝手にロックンロール